抗ヒスタミン薬と熱性けいれん
抗ヒスタミン薬は局所のヒスタミン受容体(H1受容体)と結合し,鼻水や痒みを抑制します.鼻風邪,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,蕁麻疹などによく処方されます.ヒスタミンは,本来,痙攣抑制作用を持つ神経伝達物質です.抗ヒスタミン薬が脳内へ移行してヒスタミンの働きを妨げると,痙攣が誘発されやすくなってしまいます.
抗ヒスタミン薬は開発された時代により,第1世代と第2世代に分類されます.また,中枢神経系への移行や作用により,鎮静性,軽度鎮静性,非鎮静性に分類されます.第1世代抗ヒスタミン薬は鎮静性です.また,第2世代抗ヒスタミン薬のうちザジテンやセルテクトは,脳内ヒスタミンH1受容体占拠率が第1世代抗ヒスタミン薬と同等で鎮静性です.
発熱で救急外来を受診した小児(平均年齢1.7-1.8歳)を対象とした臨床研究では,抗ヒスタミン薬の内服率は熱性痙攣が認められた群では45.5%で,熱性痙攣を認めなかった群の22.7%の約2倍でした.
当院では開院当初から鎮静性抗ヒスタミン薬の処方は行っておりません.
すなわち,感冒時は第1世代抗ヒスタミン薬を含む全ての抗ヒスタミン薬の処方を止め,アレルギー性疾患の処方では抗ヒスタミン薬を軽度鎮静性または非鎮静性のものに切り替えました.2008年から2013年までの熱性痙攣予防薬「ダイアップ坐剤」の処方人数,本数,薬用量を集計したところ,抗ヒスタミン薬の切り替え後にはダイアップの処方が切り替え前の約50%に減少していました.
厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアル「小児の急性脳症」(平成23年3月)には,「患者・ご家族の皆さまへ」という書き出しで,「アスピリンなどの熱さまし,抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬や,気管支を広げるためのぜんそくの薬などの他,てんかんを治す薬や免疫を抑える薬などの一部の薬により,小児の急性脳症が起こる場合があります.」と記載されています.また,「医療関係者の皆様へ」という書き出しで,「抗ヒスタミン薬がけいれんを発症する機序は,脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまう機序による.ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため,抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し拮抗することは望ましくない.」と注意喚起されています.
一般医家向けの医学雑誌である「日本医事新報,No.4732,2015.1.3,105-106」には,小児に処方される主な抗ヒスタミン薬の安全性について以下のように記載されています.
安全:アレグラ,アレジオン,ザイザル
比較的安全:クラリチン,ジルテック,アレロック,タリオン,ゼスラン,ニポラジン,アゼプチン
熱性痙攣を誘発する可能性があるもの:ザジテン,ケトチフェン,セルテクト,
ポララミン,アレルギン,ペリアクチン,ヒスタール,アタラックス,レスタミン,
タベジール,テルギンG
「安全」と「比較的安全」に分類されている薬剤は脳内移行が少なく,前述した非鎮静性または軽度鎮静性です.一方,「熱性痙攣を誘発する可能性があるもの」に分類されている薬剤は,高率に脳内に移行するため鎮静性です.
熱性痙攣を誘発する可能性がある抗ヒスタミン薬は,内服しないでください.当院では一切処方していません.ご安心ください.本稿で列挙したものは先発医薬品です.これらの薬剤には名称が異なる後発医薬品が多数存在します.十分ご注意ください.
耳鼻科や皮膚科の先生が処方する
抗ヒスタミン薬の処方にご注意下さい!
抗ヒスタミン薬は鼻水や痒みを抑える作用があるので、耳鼻科や皮膚科の先生も処方されますが、以下の抗ヒスタミン薬は熱性けいれんを誘発します。
皮膚科や耳鼻科の先生はそのことをご存じないので、熱性けいれんをお持ちのお子さんに平気で処方されており、慌てて内服を中止するよう指示することが多々あります。
以下の熱性痙攣を誘発する可能性があるもの
ザジテン, ケトチフェン, セルテクト, オキサトミド, ポララミン,
ニポラジン, メキタジン, アレルギン, ペリアクチン, ヒスタール,
アタラックス, レスタミン, タベジール, テルギンG など
耳鼻科や皮膚科で薬を処方された場合は、お子さんにとって安全かどうか確認をさせていただきたいと思いますので、処方箋をお持ち下さい。よろしくお願致します。